ADHD
ADHD(Attention Deficit Hyperactivity Disorder、注意欠如・多動症)は、神経発達症(発達障害)の一つで、主に注意力の持続が難しい、衝動的な行動をとる、多動性がみられるといった特性を持つ状態を指します。幼児期にはADHDでなくてもADHD様の行動パターンを示すことは多々見られますが、6歳以降には減っていく傾向が見られるため7-12歳で診断がつくことが多いです。ADHDは脳の働きに関連しており、本人の努力だけではコントロールが難しいため、適切な診断と治療が重要です。
ADHDの症状は「不注意」「多動性」「衝動性」の3つの特徴に分類されます。それぞれの症状は個人によって異なり、すべての症状が同時に見られるわけではありません。具体的には下記の通りです。
症状について
①不注意
・集中力が続かない
・ミスが多い
・忘れ物が多い
・物事の段取りが苦手
・指示を最後まで聞かず、途中で行動してしまう②多動性
・座っているべき場面でじっとしていられない手足を動かし続ける
・静かに遊ぶことが難しい
・おしゃべりが止まらない③衝動性
・順番を待つのが苦手
・他人の話を遮る
・考える前に行動してしまう下記のセルフチェックも参考になります。
→大人の発達障害ナビ上記のようなADHD症状は、トラウマ関連疾患や不安症、双極性障害の患者様など様々な精神疾患で見られ、真にADHD単独による症状であると言い難い場面はかなりあり、あくまで行動パターンについて説明する一つの仮説として捉えることになります。また、不安が強い場面では、誰しも衝動性が高くなったり、ソワソワして動き回ってしまう傾向はあり、これをADHDによる症状と見分けるのも重要ですが難しいことでもあります。また、成人の場合には、ADHDとして生きている期間も長いので、自分なりの対策がとられていることも多いです。たくさんアラームを設定していたり、AirTagをうまく使っていたりなどです。それによっていい意味で症状が見えなくなっていると、ADHDの心理検査の点数が低く出ることなども多々あるのです。そのため、詳細な問診を行い診断をつけていく必要があります。
当院で行う治療について
当院で行うADHDの治療は、精神療法と薬物療法です。
①精神療法
私が特に重視するのは心理教育です。これまで感じてきた苦手さや違和感をADHDの文脈で説明しようと試みるということです。苦手さや違和感について一定のパターンが見えてくれば、対策も取りやすくなり受容のしやすさにもつながると考えています。ADHDの方は苦手な仕事と得意な仕事の差がはっきりと出ることも多いです。細かい注意が必要な仕事や、同時に色々なタスクをこなさないといけない仕事では、より労力を要し疲れやすいです。どのような環境設定を行うかを一緒に考えていければと思います。
また、近年では、ADHDを情報処理ネットワークの課題であるとする見方もあり、私はその視点の方がしっくりとくることが多いように感じます。
その視点とは、
(1)実行機能障害:物事を実行する際の調整を行う系の障害。例えば、計画の立案ができないなどの症状につながり、「今日の予定を立てる」などといった日常的なタスクを順序立てて考えられなくなります。
(2)遅延報酬障害:後のことを考えて今のことを処理する系の障害。つまり、「将来の利益」を考慮して、現在の行動を調整する能力が低下する障害です。例えば、「今すぐお菓子を食べたい」という衝動に負けてしまい、長期的な健康のために我慢することができないなどにつながります。
(3)時間処理障害:時間的順序立てを考えて処理することに関する系の障害。つまり、時間の流れや順序を把握し、物事を時間的に整理して考える能力が低下する障害です。時間の見積もりが苦手になり、スケジュール管理が困難になります。例えば、「この仕事にどれくらい時間がかかるか」を予測できず、予定よりも大幅に時間がかかったり、逆に早く終わりすぎたりします。
これをTriple pathway modelと言います。このように、従来の診断の視点にはない様々な見方を提供することで、自身の特性への理解を深めていただく手助けを行いたいと思います。②薬物療法
ADHDの症状に対しては、薬物療法が効果を示します。なお、当院ではメチルフェニデート(コンサータ)、リスデキサンフェタミン(ビバンセ)は処方できません。薬物療法を行う際には、標的となる症状とそれによりどのように生活に影響が出ているかを確認します。生活の仕様や仕事の内容によっては、同程度の症状であっても支障になる場合とならない場合がありますので、患者様の置かれている状況を踏まえて、共同的に決めていければと思います。
※精神科の病気は個別性が高く一律な治療は難しいため、こちらの内容は当該患者様全てに上記の診療を保証するものではありません。
【参考文献・URL】
・Sonuga-Barke E, Bitsakou P & Thompson M(2010):Beyond the dual pathway model: Evidence forthe dissociation of timing, inhibitory, and delayrelatedimpairments in attentiondeficit/hyperactivitydisorder. J Am Acad Child Adolesc Psychiatry,9, 345-355