解離性障害
まず、“解離”という言葉について説明したいと思います。
例えば、昨日の自分の記憶は、自分の体験したことであるとわかることを記憶が連続している状態、統合されている状態といいます。記憶以外にも、意識、自己同一性、感情、身体感覚などは通常統合さていますが、それらが一時的または持続的に分離することがあり、その現象を“解離”といいます。
“解離”の具体的な例について挙げます。
解離の具体的な例
- 現実感の喪失:「まるで映画を見ているように感じる」「自分が自分でないように感じる」
- 記憶の断片化:嫌な出来事に関する記憶が抜け落ちる
- 人格の分離:別の人格が現れて行動を取る
- 身体感覚の鈍麻:自分の体が他人のもののように感じる
“解離”は、誰にでも起こりうる現象です。例えば、事故や災害のような極度のストレス下で、状況を現実とは思えなくなることがあります。これは一時的な解離の例です。言い換えれば、“解離”は強いストレスやトラウマに直面し、心がそれに耐えきれなくなってしまった際に、自分自身を守るために現実の体験から距離を取るようにする仕組みであり、心を安定化させるための装置です。
しかし、この仕組みの利用が日常的に繰り返されたり、それにより生活に支障をきたしたりすると、解離性障害と診断されることがあります。
当院で行う診療について
まず、解離性障害の原因や病態については未だ十分には解明されていなく、そのため、確立された治療がありません。その中で、治療がどのように行われていくのかご説明します。
①見立て・治療プランの策定
まずは、うつ病など治療方法が比較的確立されている疾患と病態が重なっていないかの判断をし、他の精神疾患を併発している場合には、その疾患の治療が優先されます。“解離”を引き起こす原因やメカニズムを環境側、患者様側からの二方向から考えていきます。そして、介入できるポイントを探っていきます。原因に当たりがついても、介入ができないということは現実には起こり得るので、その中でいい方法を一緒に考えていきたいと思います。
②治療
- 薬物療法
直接的な有効性が確立されているものはありません。
睡眠薬などの対症療法や漢方などが用いられることがあります。
- 環境調整
ストレスから物理的な距離をとるということです。解離は心理的な距離を取るということですので、環境に物理的にその役割を担ってもらうことになります。
- 精神療法
①の見立てに沿って行います。背景に、長期的な葛藤があることが多く、どんな葛藤(理想と現実のギャップ)があったのかついて一緒に考えていきます。社会、家庭でどのような役割を担ってきた、担わされてきたのか、どのような価値観で動いてきたのか、それらはどのような経験からくるのかといったことなど様々な切り口から考えます。私の役割としては、これまで無意識にしていた選択の傾向に気づくように誘導することです。言語化するということで、専門的に言えば、前意識に持ってくるということになります。しかし、今まで言語化が進まなかった理由は人それぞれあります。認知機能のこともあるでしょうし、話せる人間が周囲にいなかったり、人に弱みを見せないように育てられてきた人もいるかもしれません。少し、厳しいようにも聞こえてしまうかもしれませんが、今まで何かしらの理由で難しかったのは、それなりの理由があるからであり、そう簡単にできるわけではありません。また、無意識にあったことに気づくということは、ストレスになることも多く、患者様も大変な思いをすることが多いです。なので、患者様が受診してすぐのタイミングで取り掛かるというよりは、少し症状が落ち着き通院にも慣れてきた頃から状態を見ながらゆっくりと始めます。中々周囲には話せないことも多いと思いますので、病院という、安定した守られた関係性の中でできたらいいなと思っています。
以上が、解離性障害に対して当院で行いたいと考える診療です。
※精神科の病気は個別性が高く一律な治療は難しいため、こちらの内容は当該患者様全てに上記の診療を保証するものではありません。