適応障害
適応障害(Adjustment Disorder)は、環境や生活の変化、対人関係の問題、職場や学校での困難など、特定のストレス因子に反応して、情緒面や行動面での不適応が生じる状態です。この症状はストレス因子から3か月以内に発生し、ストレスの消失後6か月以内に改善するのが特徴です。
症状は多岐に渡り、不眠、気持ちの落ち込み、不安などの精神症状、腹痛、下痢、頭痛、めまいなどの身体症状などを呈しますが、個人差が大きいです。
また、適応障害は、環境(職場、学校、家庭)と疾患の発症の関係性が大きい疾患で、何らかの環境の変化があった際に起こることが多いです。
例えば、
・職場の同僚が急に退職し業務量や仕事内容が増えたため、処理しきれるか不安で眠れない日が続いている
・昇進に伴い中間管理職になり、日々上司と部下の間に挟まれ、話をする度お腹が痛くなる
・学校で座学は問題なかったが、実習で柔軟なコミュニケーションが必要となると、学校に行く度動悸がするようになった
などです。
これらは、環境が求めるものと自分が出せる力にアンマッチがある場合が多いです。当院で行う治療について
当院での適応障害に対する治療ですが、大きく3段階に分けて行います。
これらの段階については、同時並行で進んでくことも多く、必ず経なければいけないというものでもありません。①環境調整
一番効果的な治療になりますが、問題となった環境と距離を取ることになります。休職や配置転換がこれにあたります。患者様の状況、希望に合わせて休職の診断書などを出し環境調整の手助けを行います。もし適応障害なのであれば、問題となった環境と距離を置くことで改善を見込むことができます。それでも症状の変化がない場合には、診断名を変更して別の治療(抗うつ薬などの処方)に移行するか、症状を持続させている原因を改めて見直します。患者様によっては環境に原因があるとわかっていても様々な事情で調整が困難な方も多くおられます。そういった方々には少しでも穏やかな日常が増えるようにできることを模索していければと思います。
なお、当院では、適応障害と診断された患者様には、積極的な薬物治療は行なっていません。不眠や不安の症状が強いなどがあれば一時的に睡眠薬や抗不安薬などを用いることがありますが、薬物治療については患者様と話し合いをしながら、決めていきたいと思います。薬をあまり使わずに治療をしたいなど、患者様によってもお考えは様々なので遠慮なくおっしゃってください。
②分析
環境調整を経て、症状が改善した後には、その後の話をしていきたいと思います。患者様が希望する形に向けてアシストしたいと思います。このフェーズでは、患者様がどうして頑張りすぎないといけなかったのか。どんな葛藤(理想と現実のギャップ)があったのか。それらについて一緒に考えていきます。時には、社会、家庭でどのような役割を担ってきた、担わされてきたのか、どのような価値観で動いてきたのか、それらはどのような経験からくるのかといったことまで分析していきます。このフェーズにおいての私の役割は、これまで無意識にしていた選択の傾向に気づくように誘導することです。専門的に言えば、前意識に持ってくるということになります。これまで多くの患者様に対してこの治療を行なってきましたが、このフェーズでは取り扱う内容も非常に個人差が多く、患者様の反応も千差万別で予想ができません。これ自体がストレスになるため、患者様も大変な思いをすることが多いです。なので、患者様が受診してすぐのタイミングで取り掛かるというよりは、少し症状が落ち着き通院にも慣れてきた頃から状態を見ながらゆっくりと始まります。中々周囲には話せないことも多いです。病院という、安定した守られた関係性の中でしか話せないことも多いと思います。ぜひ、一緒に乗り越えて行けたら精神科医としてはこれ以上ない喜びです。
③戦略・作戦
症状が少し落ち着き、いつかは今後の話をする時がきます。復職をするのか、転職をするのか、引っ越すのかetc。それまでに共有してきた価値観や経験を踏まえた上で、さらに患者様によってどのような資源が使えるのか(復職プログラムが揃っているのか、配置転換は柔軟か、家族の助けは得られるか)ということも違いますので、それらを総合的に判断し、どのようにしていくのか一緒に戦略を考えていきたいと思います。
上記で説明した通り、かなり個別性が高くその分治療もオーダーメイドになります。
専門的な知識を活用しながら、患者様の価値観や考えを重視して治療していきますので、色々とお話ししていただけると大変ありがたく思います。※精神科の病気は個別性が高く一律な治療は難しいため、こちらの内容は当該患者様全てに上記の診療を保証するものではありません。